嘘と本当


彼はうそつきだ。
いつも笑顔で嘘をつく。

「まーくん」
「なにゆきこ」
「あたしのこと、好き?」

何度この問いかけをしてきただろう。両手じゃ足りないくらい聞いてきた気がする。
まーくんは一瞬眉を寄せるけど、すぐに笑顔を作る。

「もちろん好きに決まってる」

うそつき。
心の中で吐き捨てる。本当ならヒステリックを起こして問いつめたいけれど、我慢して同じように笑顔を作った。女は女優だもん、うれしい演技だってすぐにできる。

「うれしい」
「何度も聞かなくても分かってるだろ」
「ごめんね、でも聞きたくなるの」

眉を八の字にして困ったような笑みを浮かべる。それをしてしまえばまーくんはなにもいってこないから。まーくんはそう、とだけいって再び携帯に視線を戻す。私はため息をこぼした。
やっぱり彼はうそつきだ。

ねえまーくん。あたし、知ってるのよ。
まーくんがいまメールを送ってる相手、浮気相手だってこと。
前に興味本位で覗いたら、全部にロックかけられてた。そのときの衝撃は忘れられない。これが浮気じゃなかったらなんだっていうんだ。その証拠を掴もうと彼がいない隙にパスワードを解こうとするけどいまだに解除できたことなどない。
それだけ念入りなのは、その相手に入れ込んでいるということなのだろうか。一瞬よぎった考えをすぐに消す。
だめだめ、それだったら私が浮気相手にみたいになっちゃうじゃない。そんなの絶対に認めない。

「ゆきこは?」
「え?」
「ゆきこは、俺のこと好き?」

同じ質問を返されたことに気付くのに時間がかかった。
好き?なにを今更聞いてくるの?もしかしてまーくん私のことを疑ってる?ああもしかしてまーくんったら私の愛を試すために浮気なんてしたのね!
ならばすぐさま笑顔で答えた。

「あたしもまーくんのこと大好きよ!」

まーくんに抱きついて胸に顔を埋める。抱きとめてくれたまーくんは甘えん坊と苦笑して髪をなでてくれた。それだけで私は幸せな気持ちになる。

まーくん。まーくん大好きよ。
たとえあなたが嘘をつき続けても、一緒にいたいってくらい。
ああ、なんてあたし一途なのかしら!








(本当に、ゆきこはバカだな)

胸の中ですり寄ってくるゆきこの髪を撫でながらため息をこぼす。
かわいいかわいい俺のゆきこ。いつも不安がって自分に好きかと尋ねてくる。それを話すと重いというけど、俺からしたらかわいくてしょうがない。でも、さすがにここまで疑われると悲しくもなる。

(そんなこと尋ねなくてもゆきこのことこんなに愛してるのに)

いつだってゆきこのことを思って、ゆきこになにがあったら心配でしょうがない。だからゆきこに黙ってゆきこと同じアドレスにして自分に送信されるようにしている。ゆきこのアドレスはバレないように一文字変えて細工をしてある。
さっきのメールだってゆきこを狙ってる男からのメールを代わりに断っておいた。まったく、可愛い彼女を持つと大変だ。
でもゆきこが知ったら怒るのが目に見えている。だからゆきこに見られたときのことを考えて全てにロックをかけてある。

(いっそいってしまったら、ゆきこもこうも疑わなくて済むかな)

そう思っても、ゆきこの不安げな表情や好きと伝えて喜ぶ笑顔を見るのが好きなのだ。さっきだって逆に質問したとき、嬉しそうに好きといってくれたのを見たら気持ちが分からなくもない。
結局、自分はゆきこだったらなんだっていいのだ。自己解決をしてゆきこを抱きしめる力をこめる。ゆきこが「痛いよまーくん」って微笑んだ。その笑顔で俺は幸せになれる。

ゆきこ、ゆきこ愛してるよ。
君が俺の愛を何度も疑われたって、君への愛は変わらない。
ああ、なんて俺は一途なんだろう!
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