アナタが言い出したことなのよ?



ドングリエコの第二秘書のアマンダ・ベッラ(性別♂)は困っていた。
原因は、現在不機嫌の最高潮に達しているボス、ジャンマリア・B(ベネディクト)・グリエコである。
本日は第一秘書に代わって秘書を務めているが、いまの状況にほとほと困り果てていた。

「ねーえマリアちゃん、そんな不機嫌になっても先にアナタが言い出したことなのよ?」
「……その呼び方で呼ぶなmaricon(オカマ野郎)」
「その言葉そっくりそのまま返すわmoccioso(洟垂れ小僧)」


天使と疑う美少年は皺を寄せて機嫌を損なわせている。こうなると厄介なのは長年の付き合いで十分知っている。色々お菓子などでご機嫌取りをしても一向に治まらない様子に肩を落とした。

「そんなに嫌だったなら行けなんていわなきゃよかったのよ」
「……だってルカが」
「ルカちゃんがあなたのいうことはなんだって聞くのあなたが一番分かってたことでしょ?」

言い訳をいう前に先に指摘するとぐっと口を閉ざす。きゅっと結んでしまってアヒル口になってしまった口元がなんとも可愛らしい。と思ったことを素直に口にしたらなにをされるか溜まったものじゃないので黙っておく。
事の発端はジャンマリアの右腕、ルカ・アランジの出張であった。ルカは盲目ではあるが仕事はそれをネックだと思わせないほどの実力者。ジャンマリアもその実力を認めて自身の傍に置いている。
今回は、そのルカへの仕事の依頼であった。もちろん、仕事はファミリーと敵対するファミリーの幹部の暗殺。他にもできる構成員はいたが、ジャンマリアからの直々の命令によってルカはジャンマリアの元から離れて直属の部下と共にそのターゲットのいる街へと向かった。
なのに、行けと命じた本人はというとルカが傍にいないというだけでこんなにも機嫌を損なわせる。まだ13歳という年齢だから仕方がない。また、ルカはジャンマリアにとって右腕以上の存在でもあるのだ。

「臍曲げてまで行けなんて、マリアちゃんにしては珍しいわね」
「……」

淹れたばかりの甘い甘いミルクティが入ったカップをマリアの机に置く。たとえご機嫌斜めになったとしても仕事を怠らないのはジャンマリアのいいところだ。ジャンマリアは渡されたカップを受け取ると一口に含む。

「……僕だって行かせたくなかったさ」
「あらそれなら」
「でも、ルカが」
「ルカちゃんが?」
「……あそこのワインは美味しいっていうから」

ふてくさった口調でぷくっと頬を膨らませて顔を逸らす。頬が微かに赤みを差しているのは、照れているのかもしれない。
目をパチクリとさせてジャンマリアをまじまじと見た。その姿はとても子供らしい。

「……つまり、ルカちゃんが飲みたいっていうから行かせてあげたの?」
「だってどうせ飲むならそこで飲んだ方が美味しいじゃないか」

本当は行かせたくなかったし、僕から離れるわけには行かないって断ると思ってた。なのに二つ返事ではいなんていうから、酷いよルカ。
ジャンマリアはカップを両手で包んで変わらずふくれっ面のままぶつぶつ文句を垂れ始める。バカ、アホ、おっさん、ドジっ子。口々に出る言葉はなんとも幼稚で、しかしそれがまた子供らしくて思わず噴き出してしまった。

「フフッ、マリアちゃんったら……本当にルカちゃんのこと大好きなのねぇ」
「……煩い、ルカにはいうなよ」

いったらお前の首をはねるからな、なんてギロリと睨んでくる。おお怖い怖いとわざとらしく両腕を抱いて怖がる振り演じてみせた。

(いうなっていわれてもね……もう遅い気がするけど)

ジャンマリアは気付いていない、実はもうとっくに仕事を終えたルカがジャンマリアへのお土産を持って部屋の前でいつ入ろうか悩んでいることを。
本来ならばすぐに報告すべきであったが、こんなドンの可愛い姿をもう少しだけ拝んでいたい。そんなちょっとした悪戯心を胸に秘めて、文句をいい続けるドンの話を右から左へと受け流すのであった。

 
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